そのタルト作りは、暗号解読から始まった。

こんにちは。
昨日は仕込み作業の為、急きょディナーの営業時間を短縮させていただきました。
急なお知らせとなってしまい、大変申し訳ございませんでした。

夫婦ふたりでやっているため、どうしても食材の仕込みの量に限界があったり、その他の対応でも行き届かない部分もあるのも現実です。
そんな中でもいつもあたたかく見守ってくださる方が多くいらっしゃるのは、本当にありがたいことだなあと日々感じています。

いつだって「美味しかった!」と笑顔で言って貰いたいという気持ちは変わらないので、その為に私たちも最善を尽くします!

仕込みと言えば…。
これは、先週お出ししていたタルト・キャソナードを作ろうとしていた時のこと。
シェフが、ルセット帳(レシピ帳)を前に数十分頭を抱えていました。

そのルセット帳は、シェフがベルギー修業時代からずっと持っているもの。
すごく年季が入っていて、シミだらけだしビリビリに破けているところもあります。

そこに記されている文字はまるで暗号のようでした。
フランス語表記の部分があるというのもそうですが、それを抜きにしても本当に何て書いてあるかわからない。

それを書いた本人のシェフも、その暗号のようなルセットが解読出来ず頭を抱えていたんです。

「えっ。自分で書いたのに何でわからないの?」と思った私。
理由はかなり奥深いものでした。

シェフの当時の修業先では、絶対にお店のルセット(レシピ)を教えてくれなかったんですって。
メモを取ることも許されなかったんだとか。
仕事をしていると「メモをしなさい!」と言われる事が多いイメージの中、それが許されないとは、かなり驚きました。

それでも、何とかしてそのお店の味や調理法を盗もうと毎日必死だったそうです。

誰かが作っている姿を見て一生懸命覚えたり、「軽量して」と早口でバーッと言われた分量をその場で必死で暗記して、先輩たちに見えないように手にそれを殴り書きして、帰宅してからメモに起こしたり。

そんな限られた僅かな時間の中で必死に書き起こせば、あの暗号のようなルセット帳になるな…と納得。
そんな血の滲むような努力をして得た知識だからこそ、シェフの料理は美味しいんだなと改めて感じました。

当時の記憶を掘り起こして掘り起こして…やっと解読できたタルト・キャソナードのルセット。
無事に完成したタルトはシンプルだけど、震えるほど美味しかった…!

この、ベルギーの修業先のやり方って、今の時代では古い!と思う面もあります。(料理人でもない私が言うのも大変おこがましいですが。)
でもその血の滲むような経験がなかったらこのタルトには出会えてなかったんですよね。

その経験があるからこそ、私も毎日「シェフの料理は美味しいです!」と自信を持ってテーブルにお皿を運べるんです。
私の大好きなシェフの料理の魅力が今後もより多くの人に伝わるよう、頑張ろうっと!

たくさんたくさん仕込んでいたのに、瞬く間に無くなってしまったタルト・キャソナード。
またいつか復活して欲しいなあ…。