立春朝搾りを手にとって、味わってみて。

「立春朝搾りというお酒があるんです。」

いつもお世話になっている酒屋さんに立春朝搾りについてお伺いしたのが、1月中旬のこと。

日本酒には、同じ蔵元さんで製造している中でも、季節ものなど様々な種類があります。
立春朝搾りとは、2月4日の立春の朝に搾りあげたお酒を、そのまま瓶詰めして届けられたお酒のこと。
恥ずかしながら、立春朝搾りなるものを飲んだことがありませんでした。

「何それ。美味しそう。」

それが、酒屋さんに話を伺った時にパッと感じたことです。
もうすぐに、直感で、「ぜひ、そのお酒うちで出させてください」と言っていました。


そう決まってから、せっかく素敵なお酒が入って来るのだから、このお酒に合うお料理を出そう!とシェフも色々と試行錯誤。
そして、生まれたのがこちら。

フォアグラレーズンバター。

一見、とってもシンプルな一皿。
よくあるレーズンバターかなあと思いきや、一口食べたら口いっぱいにフォアグラの香りがふんわり広がります…。ワインはもちろん、日本酒にも合ってしまう危険な味。

こちら、専用のパンを一緒にご用意しています。
普通のパンとブリオッシュの中間ような食感と甘みが、このバターと相性ぴったり。
このパン自体の美味しさと、フォアグラレーズンバターの濃厚ながら軽い食感がたまらなく美味しくて、永久に食べていられる…。


そして、もう一品が真鯖の昆布じめ。

え?フランス料理屋で鯖の昆布じめ?

びっくりされる方、たっくさんいらっしゃいます。
そうですよね。私もびっくりしました。

こちらは、真鯖を白ワインビネガーと昆布でしめています。
下に敷かれた自家製ポテトサラダと相性ぴったりなのが、またびっくり。
少し酸味のあるポテトサラダと、鯖の青臭さがうまくマッチして絶品。
最後パッとかけたブラックペッパーも良いアクセントになっています。

大半の方が日本酒を片手に鯖を食べています。
そうですよね…。これは日本酒を飲まない訳にはいかない…!そんな味わいです。

2月4日、立春当日。
ランチ終わり頃に酒屋さんが立春朝搾りを持って来てくださいました。

担当の酒屋さんは、目が少しうとうとしていて、眠そう。
実は、酒屋さん達は立春当日の早朝に蔵元へ行き、瓶詰めされた立春朝搾りの出荷作業をお手伝いして、そのまま各お店へお酒を届けるのです。

「今日は、4時半に蔵元さんへ行って来ました」

…な、なんと…!!

そんな苦労があって届いた立春朝搾りは、とにかくフレッシュ。
それでいてお米の甘みもしっかりと味わえて、見た目の透明感といい、味わいといい、「綺麗なお酒」ってこういうお酒のことを言うんだな。と感じました。

この日に向けて夜な夜なお酒を作ってくれていた蔵元さんや、ここまで届けてくれた酒屋さん、色々な方の苦労がこの瓶にびっちり詰まっているのが、バシバシ伝わって来ました…!

この日のために用意したシェフのお料理ともよく合って、皆様からもたくさん「美味しい!」と嬉しいお言葉をいただき、大成功!

アリーを担当してくれている酒屋さんは、こんな街場の小さなお店にも関わらず、いつもとても親身になって相談等に乗ってくれます。
まさか、フランス料理屋で立春朝搾りを出そうなんて、頭の片隅にすらなかったのに
「このお店のお料理と雰囲気なら、良いかもしれない!」
と話を持ち出してくれたのです。

その酒屋さんの愛のある仕事が、立春朝搾りという美味しいお酒に出会わせてくれたし、それに合うような美味しいお料理生み出すきっかけをくれたんだなあ。

このお酒を飲むまでは

「縁起物だ!搾りたてだから美味しいぞ!えへへ!」

と、少し軽い気持ちで考えていましたが(ごめんなさい)、酒屋さんや蔵元さんの素敵な仕事ぶりに直接触れて、味わって、

「ああ、なんだか良い年になりそうだな」

とじんわり思ったのでした。

そして、私も頑張ろうと、少し背筋がシャンとしたのでした。